本文へスキップ

五十嵐明要オフィシャル・ウェブサイト

インタビューINTERVIEW

目次 > ダブルビーツ > 和ジャズ > 男の隠れ家 > キレイな音 > 秘密の年 > 面白い話

リード・アルトは非常に精神を使う仕事なんだよ 前川元

ジャズ批評No.40/1982年/インタビュー/日本のアルト奏者「アルトにかける情熱」より抜粋

―― リード・アルトというのは、バンドの中でも重要なポジションで、大変だと思うんですが、リード・アルトとしての目標にしたミュージシャンといいますと、やはり、エリントンのジョニー・ホッジスあたりですか?

前川 リード・アルトというのは、ハデな存在ではありませんからねえ。いわゆるセクションを束ねて行くことが仕事ですから。エリントンのバンドは、ひとりひとりが大スターで、リード・アルトをとっているジョニー・ホッジスもリード・アルトとしてよりも、ソリストとしての比重が大きいのではないですかね。勿論、リード・アルトとしての彼のプレイも素晴らしいですが、むしろソロの方に特徴が出ていると思います。

ジョニー・ホッジス個人については、本当に素晴らしい音色を持ったミュージシャンだと思います。厚生年金で演った時のことなんですが、どうしてあんな素晴らしい音が出るんだろう、と興味を持ちまして、ワン・ステージ目が終わって、メンバー全員楽屋に引っ込んでから、ジョニー・ホッジスのポジションに行きましてね、置いてあるホッジスのアルトを手に持って見たんです。キャップをはずしまして、色々と見たりしてね(笑)。随分大胆なことをしたわけなんですが、彼の音には、そこまで興味を持ちました。

スイング時代のリードアルトでいうと、ウィリー・スミスという人がいます。彼などは、強力なリードをとるんです。それからベニー・グッドマンのオーケストラの全盛期にリード・アルトを演っていたトーツ・モンデロという人がいたんですが、この人も典型的なリード・アルトですね。この人は、ベニー・グッドマンより高いギャラを要求して、そのためにバンドが解散になったという、エピソードがあったぐらいの人ですからねえ。

―― リード・アルトでは、どういった難しさがあるのでしょうか?

前川 まあ、リード・アルトというのは、セクション全体の音をまとめるというのが、仕事なわけなんですが、ただ単に音だけまとめればいいというものではないと思うんですね。

演奏というものは、その人の人格の顕われですから、人間形成というものが、音楽には非常に重要な意味を持つわけですね。人間として欠陥の多い人は、バランスのとれたいいぷれいやーにはなれないでしょうし、人間形成の出来ていない人には、筋の入ったプレイが出来ないと思うわけです。リード・アルトはそういったひとりひとりの精神面に関しても注意を払い、束ねて行かないと、結果的に音も束ねられないと思うわけです。そういった面では、非常に精神を使う仕事だと思いますね。

―― 現在、アルト・サックスを勉強している若い人たちに、何かアドバイスをお願いします。

前川 意識を高く持って、演ってもらいたいと思います。ジャズの場合は、クラシックと違い、一定のルールさえ守れば、非常に自由な音楽だと思うんですね。しかし、安易な気持ちで演れると思ったら、大間違いなんです。第一線で活躍しているミュージシャン、前田憲男さんにしろ、五十嵐明要さんにしろ、日々の練習と精神面の向上によって、プレイをしているわけなんですから、甘い気持ちで、プロになって、演って行こうと考えても、それは無理な話です。 (1982)