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五十嵐明要オフィシャル・ウェブサイト

レビューREVIEW

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【伊藤 潮】HERE AT LAST 五十嵐明要ミーツ田村翼

田村翼、これほどジャズを敬愛し続けている人を私は知らない。ミュージシャンという種族は、皆、音楽を愛していることは言うまでもないが、とりわけ自分の専門の楽器の活躍できる部分には特に強い関心を示す。その様な好きさ加減が各々の音楽家の個性を形成しているわけで、そこにある程度の偏りが存在するのが普通だ。つまり、音楽を偏愛している人が大多数といってもよいであろう。

ところが翼さんはジャズを丸ごと敬愛してやまぬ人なのである。初めて耳にしたレコードでも、各楽器の奏者が誰であるかを即座に言い当ててしまうほどである。その翼さんのジャズに対する妥協のないひたむきな研究心は偏愛のレベルの演奏を認めない厳しさをも同居させている。

その彼が、かねてより共演を熱望していたのが、五十嵐明要その人である。

幻のモカンボ・セッション(1954年当時の日本のホットなジャズ・シーンを記録した名盤。私はまだ生まれていないが)などにもその名を連ね、以来コンボに、オーケストラにと常に一線を歩いてきた、わが国の誇るアルト・サックスの名手は、本場米国でも支持され、この数年はモンタレージャズ祭の常連にまでなっている。慌てず、騒がず、朗々と旋律を歌い上げる芸は、まさに真打ちと呼ぶにふさわしい。

そして、この田村・五十嵐の待ち望んだ共演は実にすんなりと、しかし遂に実現したのである。 HERE AT LAST!

伊 藤 「ヨクさんが・・・トシちゃん(五十嵐氏の愛称)とやりたがってます」
五十嵐 「いいよ。でもさあ、アルトだけじゃなんだから、徹ちゃんも頼んでよ」

ということで、願ってもないいぶし銀のギタリスト、小西徹氏のゲスト参加という特別付録までついた次第だ。小西氏は、シックス・レモンズや、北村英治オール・スターズ等での活躍をじはじめ、早くからバップのイディオムを取り入れたプレイで注目を集めた、草分け的存在のギタリストである。

この三者の強烈な個性は、初の共演にもかかわらず見事な色彩を描き出した。そして、ビートルズ世代ながら、伝統的ジャズに傾倒するベースの伊藤(潮)とドラムの佐々木(豊)は、オヤジさんたちの信念と技を、心から満喫し、サポートを楽しんだのだった。 (1995)