本文へスキップ

Webmaster's Choice

ヴィック・ディケンソンVIC DICKENSON

>>次へ

ザ・ヴィック・ディケンソン・ショウケース論 油井正一

中間派ジャズとは、スウィング時代の末期からモダン・ジャズへの過渡期に、主としてコンボによって行われたスウィング・セッションを指す。欧米では「主流派ジャズ」 Mainstream Jazz と呼ばれている。

1930年代のはじめカンサス・シティで行われたジャム・セッションに端を発し、1940年代に入るやマンネリとコマーシャリズムに陥った白人ビッグ・バンド・スウィングへの批判勢力として、主として黒人のすぐれたプレイヤーたちが行ったコンボ・セッションである。

時あたかもガレスピーやパーカーによるニュー・ジャズ …… ビ・バップがジャズの新興勢力として台頭しつつあり、その反動的現象として古い創生期のジャズへの郷愁がニューオリンズ・リバイバルを起こしつつあった。

ビ・バップへ馴染み得ず、さりとて大昔のジャズへ後退する気にもなれなかった多くのベテラン・プレーヤーは、「オール・アメリカン・リズム・セクション」の別称まで得たカウント・ベイシー楽団のリズムを模範とし、その上に自由なインプロビゼーションを展開したのである。

原則として編曲はなく、いわゆる「ヘッド・アレンジ」(打ち合わせ編曲)で、くつろいだジャム・セッションをくりひろげたのであった。

Vic Dickenson Show Case上に述べたように中間派ジャズそのものは1940年代に盛んに演奏されたものである。それを1950年代に入って復活したのは、ジャズ評論のパイオニアであり、一代の名タレント・スカウトでもあるジョン・ハモンド氏であった。クラシック専門のレコード会社「ヴァンガード」の委嘱で、ジャズの制作を担当するに当り当時最高のハイファイ録音を誇ったこの社のスタジオに、中間派ジャズメンを集め、全くくつろいだ雰囲気で時間を制限せず、奔放なセッションを行わせたのである。

「ディケンソン・ショウケース」はその最初の試みのひとつで、「中間派ジャズの傑作」と折り紙をつけられる名盤となった。数コーラスを分担するアドリブ・ソロが演奏のハイライトであるが、注意していいのはアンサンブル・パートの多くが、ニューオリンズ・イディオムで演奏されていることである。

1本のホーンがリードし、他の2本のホーンがそれにからみあうアンサンブルは、ジャズの粋とされる対位法的な「ディキシー・アンサンブル」である。中間派ジャズはカンンサス風のリフ・アンサンブルをとり入れるものが多く、このレコードはそうした意味でも示唆するところが大きい。

ではディキシーランド・ジャズか?というとそうではない。あくまでも分類上は「中間派ジャズ」である。同じ頃ジェリー・マリガンがチェット・ベイカーと組んで、同じようにディキシー・アンサンブルを基礎とした演奏を行ったが、誰も「ニュー・ディキシー」と呼ばず、「クール・ジャズ」ないし「モダン・ジャズ」と呼んでいたのと同様である。

過去のジャズを生み出した「真髄」ともいうべき部分は、このように年月を隔てて新しいコンセプションのもとによみがえるものである。

「The Vic Dickenson Showcase」(SH 3086/7)より部分転載させていただきました。