ヴァンガードは1950年に創立され、当初はクラシックやフォークを柱にしていた。しかし1953年になると、著名なジャズ評論家兼プロデューサーのジョン・ハモンドを招いてジャズの制作にも乗り出した。「ヴァンガード・ジャズ・ショウケース」シリーズである。一連の作品は、いわゆる中間派主体の顔ぶれだが、さすがはハモンドと思わせる見事な出来栄えとなった。それは決して超大物を集めた豪華メンバーではなかったのである。
ハモンドといえば、テディ・ウィルソン、カウント・ベイシー、ビリー・ホリデイ、チャーリー・クリスチャンらを発掘した稀有のタレント・スカウトであり、監修者としてはジャズ・レコード史上に輝くテディ・ウィルソンのブランズウィック・シリーズを残した人である。ヴァンガードを引き受けた1953年当時、中間派の大物はほとんどノーマン・グランツのクレフと契約していた。さすがは、と書いたのはそういう背景もあった。
「ヴァンガード・ジャズ・ショウケース」シリーズの成功は、一にも二にも監修者にハモンドを選んだ点にある。ユニークでありしかも適切なハモンドの人選は、彼らを絶頂期で捉えたことで生きた。全シリーズを通していえることは、中間派ならではあのくつろいだスウィング感に溢れている点である。リズム・セクションに対する格段の配慮が演奏をぐっと身近にしている。リズム・ギターの重用はその具体的な表われである。ジャズらしさを薄めている最近の録音はリズム・ギターを外したことと無関係ではないことを想起させるのである。
シリーズ成功の上で見逃せないのは録音の素晴らしさである。「アン・アドベンチュア・イン・ハイフィデリティ・サウンド」という触れ込みに掛け値はない。実際、もしヴァンガードがフレディ・グリーン(g)、ウォルター・ペイジ(b)、ジョー・ジョーンズ(d)、つまりオール・アメリカン・リズム・セクションの録音を残さなかったら、このスリーサムの素晴らしさを実感として受け取ることは出来なかっただろう。そしてハモンドのイメージ通りに仕上がったシリーズの第一作がこのアルバム(原版番号VRS8001)なのである。この演奏はLP時代に入ってからの中間派録音が語られるときに、常に引き合いに出される傑作となった。
今日、中間派ジャズはプレーヤーの高齢化と後継者難が重なって魅力を薄めている。残念ながらこれは事実として認めなければならない。しかし、だからといって中間派のジャズそのものが魅力を失ったとはいえないことを本レコードが示している。要するに鮮度如何だ。鮮度の高いジャズ、つまりよいジャズは時代やスタイルを超えてエバー・グリーンの魅力を発散できる。それは1920年代に吹き込まれたルイ・アームストロングのレコードがいまだに光彩を放っていることで納得できるだろう。 (1991)
「Vanguard Mainstream Jazz Collection」(KICJ-188)より転載(一部加筆)させていただきました。