カウント・ベイシーといえば、テーマ曲の「One O'Clock Jump」です。この曲について小さな逸話を書いてみましょう。
カウント・ベイシー楽団のテーマ曲「One O'Clock Jump」(12小節)の由来は、カンサスシティの「The Reno Club」からW9XBY局の深夜ラジオ・ライブ演奏をしていたとき、アナウンサーから曲名を問われて、ベイシーがとっさに時計を見て「1時のジャンプ」と答えたことによるものと伝えられています。
Count Basie and His Orchestra 1937
Count Basie and His Orchestra 1937/07/07 Digital Stereo produced by Robert
Parker
オーストラリアの高名なオーディオ技術者のロバート・パーカーの手によって疑似ステレオ化された逸品です。
第二次大戦のさ中に米空軍ラジオ放送のためにピックアップされた演奏曲集。奏者は出入りが激しく、強行スケジュールの中で収録されました。ソロオーダーは、Count
Basie(p)→Buddy Tate(ts)→Ted Donery(tb)→Count Basie(p)→Rudy Rutheford(cl)
なお、リズムセクションは Freddie Green(g) Rodny Richardson(b) Shadow Wilson(d)です。1944/05
実はこの曲には本来の曲名がありましたが、放送にふさわしくない曲名だったので、ベイシーはあわてて別の曲名を答えざるをえなかったのです。本来の曲名は「Blue Balls」。これはきわめて下品なスラング(外部リンク)でした。
カウント・ベイシー楽団のテーマ曲には変遷がありました。ベイシーが1935年にベニー・モーテンから楽団を引き継いだときは「Moten Blues」でした。そして間もなくハーシャル・エバンスの「Blue and Sentiental」に変更し、1937年にこの「One O'Clock Jump」を使い始めました。その後はこの曲がテーマとして使い続けられました。
Benny Moten's Kansas City Orchestra "Moten Blues"1935
Count Basie and His Orchestra "Blue and Sentimental" 1938
One O'Clock Jump の作者はカウント・ベイシーとクレジットされていますが、正確には盟友のアルト・サックス奏者のバスター・スミスとギタリスト兼編曲者のエディー・ダーラムの協力を得ております。しかしバスター・スミスはバンドのニューヨーク進出へ帯同していなかったのでクレジットを取得する機会を失ってしまったのでした。
One O'Clock Jump は12小節のブルース形式の曲ですが、後半のリフ部分は、チョコレート・ダンディーズの「Six or Seven Times」(1929)から引用されたものと言われています。
The Chocolate Dandies "Six or Seven Times" 1929
One O'Clock Jump は、当初「Fメジャー」で演奏されていました。ベイシーはこの曲をテーマにするとなったとき、ピアノのイントロ8小節部分とメインテーマは「Fメジャー」のままで、次のブラスのアドリブ・ソロから「Dフラット・メジャー」に転調したいと指示しました。バンド・メンバーは驚きましたがすぐそれに従いしました。そして現在もそのルールで演奏され続けています。一部にBフラットで演奏している楽団もありますが、市販の譜面によるところが多いのでしょう。
簡易な楽譜です。転調の部分はAフラット・セブンスを用いています。Midiで聞くことができます。
PCに収録してあるベイシー演奏曲からこの曲を検索してみると約200曲がヒットしました。重複も多いようですが、ライブ放送録音のものが多いようです。ライブ放送の初めと終わりや幕間にアナウンスと共に演奏されており、従って短時間のものが多いようです。
ベイシーの晩年は、このテーマ曲をフルに演奏することがなくなりました。
下記のYouTubeは1938年当時の最長のエンディング・バージョンです。ナイトクラブ「フェイマス・ドアー」での演奏については数多くの逸話が残されています。
CBS broadcast, Famous Door, NYC, 1938/07/09
Ed Lewis, Buck Clayton, Harry Edison(tp); Benny Morton, Dan Minor, Dicky
Wells(tb); Earle Wallen, Jack Washington, Lester Young, Hershel Evans(sax);
Count Basie(p); Freddie Green(g); Walter Page(b); Jo jones(d)
1. ベニー・グッドマンは1938年のカーネギーホール・コンサートでこの曲を演奏しました。これは名演奏として高く評価されています。
2. ハリー・ジェームズは、1939年にちょっとアレンジを施して「Two O'Clock Jump」と題して演奏していることは有名です。クレジットがハリー・ジェームズとなっているところがニクイですね。
3. 1941年には「メトロノーム」誌の読者投票によるオールスターズでの演奏曲に選ばれました。
Benny Goodman live at Carnegie Hall 1938
Two O’Clock Jump - Harry James 1939
Metronome All Stars
solos: intro Buddy Ritch(d) - Count Basie(p) - Charlie Christian(g) -
J.C. Higginbotham(tb) - Coleman Hawkins(ts) - Cootie Williams(tp)
- Benny Carter(as) - Harry James(tp) - Benny Goodman(cl) 1941/01/16
NY
オスカー・ピーターソンが敬愛するカウント・ベイシーのナンバーを特集したアルバムです。Oscar Peterson(p) Herb Ellis(g)
Ray Brown(b) Buddy Rich(d) 1955。(収録曲:Blues For Basie, One O'Clock Jump)
高音質のハイレゾ音源でも頒布されています。レイ・ブラウンのウォーキング・ベースは素晴らしく参考になります。
再掲しました。Jazz at Lincoln Center Orchestra の最新映像です。向かって左側のテナーサックス Walter Blandingはハーシャル・エヴァンス役、右側のVictor Goinesはレスター・ヤング役です。これに勝る楽しい演奏はありません。
(2019/04/15)