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メインストリーム・リズム・ギターMAINSTREAM RHYTHM GUITAR

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メインストリーム・リズム・ギター論

1. フレディ・グリーン

《特報》 フレディ・グリーンが「2020年ジャズ殿堂入り」しました。詳細はこちらのERTEGUN HALL OF FAMEのサイト(外部リンク)をご覧ください。(2020/09/01)

Freddie Greenメインストリーム・ジャズのリズムは、カウント・ベイシー楽団のオール・アメリカン・リズム・セクションの演奏したリズムを基本としていることは、序説あるいはオール・アメリカン・リズム・セクション論などでご紹介しましたが、ここで概要を再掲しておきましょう。

ベースは、重低音を用いて着実にフォー・ビートを弾き続け、『全体のリズムと和音進行の基調』をつくる。各拍は均等でかつレガートで、装飾音は一切使わない。ギターは、リズムをリードするのではなく、ベースと一体となって『和音の進行とリズムに彩りを添える』ことに専念する。ドラムスは、主としてハイハットとライド・シンバルを用い、特徴的なアクセント付けによって『スウィング感とドライブ感』をつくりだす。ピアノは、単純化し不必要な和音は弾かない。

この中で最も注目されるのがリズム・ギターでしょう。とりわけフレディ・グリーンの存在は際立って重要だったと思われます。では彼の代表的な演奏集をひも解いていきましょう。

FREDDIE GREEN: King of Rhythm Session

フレディ・グリーンの代表アルバムはこれが選択されてもよろしいのではないかと思います。1950年代の代表的演奏をチョイスしたアルバム「Giants of Jazz」シリーズです。
(収録曲:1.Lil' Darlin' 2.The Kid From Red Bank 3.Port Of Rico 4.Kansas City Side 5. Woolafunt's Lament 6.Up In The Blues 7.Learnin' The Blues 8.9:20 Special 9.Swingining Back 10.Doggin' Around 11.It Had To Be You 12.This Year's Kisses 13.Freddie's Tune14.Babe's Blues 15.Duet)

Freddie Green Album1950年代の中頃にちょっとしたフレディ・グリーンのブームが起こり、彼は数多くのレコーディングに参加するようになりました。その中でもRCAビクターは矢継ぎ早に複数の録音を残しました。


これらのアルバムの大半は、ジョー・ニューマン(tp)とアル・コーン(ts)を中心に据えて、アル・コーン、マニー・アルバム、アーニー・ウィルキンスのアレンジを用いた異色の組み合わせのものでした。しかし、この演奏(録音)にはいろいろな問題点がありました。例えば、全編に亘って平板な編曲が施されてメインストリーム・ジャズとはかけ離れたものになったことです。このようなことでRCA盤は芳しい評価を受けることはありませんでした。


Concordレーベルで発売されたこの「リズム・ウィリー」というアルバム(1975)は、ハーブ・エリス(eg)、フレディ・グリーン(rg)、ロス・トンプキンス(p)、レイ・ブラウン(b)、ジェイク・ハナ(d)という豪華なカルテットの演奏ですが、名称もアルバム・イラストも含めて面白味の無い演奏集です。(収録曲:1.It Had To Be You 2. Rhythm Willie 3. Gee Baby, Ain't I Good To You 4. A Smooth One)

Super Bass

フレディ・グリーンのレアで興味深い録音といえばこの「Super Bass」です。レイ・ブラウン、ジョン・クレイトンのベースにフレディ・グリーンが加わり、ジェフ・ハミルトンがドラムスでサポート。1988年Capri Recordsからの発売です。レイ・ブラウンによるとフレディ・グリーンの最後の演奏だろうとされています。(収録曲:1.One Armed Bandit 2.Goodbye Freddie Green 3.Five O'Clock Whisle)

一方、リズム・ギター・サウンドが効果的に録音されたことと相俟って、晩年のレスター・ヤングの傑作のひとつといわれているのが、Verveの「The Jazz Giants 1956」です。リズム・セクションは、テディ・ウィルソン(p)、フレディ・グリーン(g)、ジーン・ラメイ(b)、ジョー・ジョーンズ(d)で、フロントは、レスター・ヤング(ts)、ヴィック・ディケンソン(tb)、ロイ・エルドリッジ(tp)です。(収録曲:You Can Depend On You)

レスター・ヤングといえば、Savoyレーベルで1944年5月1日に録音されたものがメインストリーム・ジャズのお手本とされています。リズム・セクションは、カウント・ベイシー(p)、フレディ・グリーン(g)、ロドニー・リチャードソン(b)、シャドウ・ウィルソン(d)ですが、AARSを忠実に踏襲して心地よいスウィング・リズムを醸し出し、これに乗ってレスターも生涯に残る名演奏を展開しています。この絶妙なスウィング感にリズム・ギターの存在が大きく寄与していることは明らかで、このようなリズムをバックにすれば、心が浮き立ち名演奏が生み出されるのも当然なのかも知れません。(収録曲:Back Home Again In Indiana)


古い録音の話はこれまでにして、新しい話題に移ります。現在活躍中のリズム・ギタリストは極めて少数になってしまいました。その中で見事なリズム・ワークを発揮しているのが、大御所のバッキー・ピザレリとベテランのハワード・アルデンでしょう。ご両人とも7絃式電気ギターの達人ですが、シチュエーションに応じてアコースティックのリズムに徹した演奏を聴かせてくれています。

バッキー・ピザレリが尊敬するフレディ・グリーンに捧げて録音したアルバム「5 For Freddie」から3曲をチョイスしました。アルバムにはこのように書かれています。ギターのバッキー・ピザレリはフレディ・グリーン、ジョン・バンチはカウント・ベイシー、コルネットのワーレン・バシェはハリー・エディソン、ベースのジェイ・レオンハートはウォルター・ペイジ、ドラムのミッキー・ロッカーはジョー・ジョーンズの気持ちで演奏しました、と。 (録音:2000年、収録曲:1.Shiny Stockings 2. Centerpiece 3. Corner Pocket)

加えてご紹介するのは、ハリー・アレン(ts)がスコット・ハミルトン(ts)を迎えた「ジャスト・ユー・ジャスト・ミー」(2003年録音)です。リズム・セクションは、ジョン・バンチ(p)、バッキー・ピザレリ(g)、ジョン・ウェーバー(b)、ジェイク・ハナ(d)です。ここではバッキー・ピザレリのアコースティックなリズムを聴くことができます。最近のギタリストはアンプを使ったままでリズムを弾くことが多くなっていますが、これでは本来のスウィング・リズムを奏でることは出来ません。このCDはメインストリーム・ジャズを十分に堪能させてくれる一枚としておすすめです。

近年になって、フレディ・グリーンの奏法を研究する人が多くなり、フレデイ・グリーンのオフィシャル・ページも開設されています。また、動画サイトなどでフレディ・グリーン奏法を披露するものも多数出現していますが、残念ながらそのほとんどが似て非なるものが多いのが実情です。例えば、ギターを平らに構えることについては、彼は大きな掌でネックを握って(わしづかみして)います。これは長い親指で第6弦を押さえたりミュートさせるためなのです。また低音弦を中心に大きなサウンドを弾き出すためにピックを並行ではなく上下に打ち付けるためなのです。また、左脚の上に構えるのは楽器の形状からして必然なものなのです。指の短い日本人がフレディのマネをして楽器を平らに構えるのはそもそも無理じゃないでしょうか。
ではフレディ・グリーンの名演奏の一部をご紹介しておきましょう。(動画集のページにフルバージョンを掲載しています。)


ジャズ・ギターの巨人と呼ばれたジョー・パスは、ジャズ・ギター教本でフレディ・グリーンの奏法の起源についてこう解説しています。「エレクトリック・ギターが登場する以前は、ビッグバンドにおけるギタリストは、できる限り大きなボリュームを出さねばならなかった。従って、管楽器やリズムセクションのボリュームに対抗するには、コード・ボイシングに低音弦を使う必要があったのである」と。




John Coltrane The Bethlehem Years: Not So Sleepy 1957

フレディ・グリーンがジョン・コルトレーンのバックを務めた貴重なアルバム。当初心地よいフォービートのリズムだったのが、ドラムがやたらとドタバタし始めて雰囲気を壊してしまいます。
Donald Byrd(tp) Al Cohn(ts) John Coltrane(ts) Gene Quill(as) Frank Rehak(tb) Eddie Costa(p) Freddie Green(g) Oscar Pettiford(b) Philly Joe Jones(d)


RHYTHM IS MY BEATフレディ・グリーンの子息のアルフレッド・グリーン氏が2015年に「RHMTHM IS MY BEAT」というフレディ・グリーンの伝記を発刊しました。フレディ・グリーンはキング・オブ・リズム・セッションとしてサウンドを聴くものであって文章で読んでも致し方ないものですが、彼の生い立ちから晩年に至る「年表」は興味のあるものだと思います。
そこで「フレディ・グリーンの年表」の抄訳をしてみました。

「フレディ・グリーンの年表」のページは、こちらです。 (2023/06)



2. スティーブ・ジョーダン

ジョン・ハモンドにより1953年に録音されたLPバンガード「ヴィック・ディケンソン・ショウケース」の冒頭の曲「ラッシャン・ララバイ」で聞こえる不思議なギターサウンドに驚き、「このギタリストは誰だ?」と思った方も多かったことでしょう。

当時、スティーブ・ジョーダンの経歴について詳しく報じられていませんでした。その後ネットの普及に従って彼のプロフィールが検索できるようになり、1993年に彼自身による自叙伝「RHYTHM MAN」が発売されてから、徐々にファンにも知れ渡ることになりました。彼は、フレディ・グリーンと同様にリズム・ギターの専門職で、もっぱらビッグバンドで演奏していました。地味な存在であったため知る人ぞ知るという存在でした。また、奏法がフレディ・グリーンの「Bloom-Bloom」に対して、ジョーダンは「Chunk-Chunk」と聞こえて特徴が無かったため、名声を得ることができませんでした。晩年のトリオでの演奏を聴いてみましょう。

Steve Jordan Trio 1992

Steve Jordan(g) John Cocuzzi(vib) Clyde Hunt(tp)
Live From The Reston Community Center Reston, Virginia 1992

RHMTHM MANスティーブ・ジョーダンの自叙伝「RHYTHM MAN」では、所属したビッグバンド「ウィル・ブラッドレー楽団」のことから、ジョン・ハモンドとの演奏からベニー・グッドマン楽団での演奏活動まで、裏話から詳細なディスコグラフィまで記述されていています。いずれ、ページを変えて「スティーブ・ジョーダン論」を綴ってみたいと思います。

「スティーブ・ジョーダンのリズム・ギター論」のページを開設しました (2023/02)



3. チャーリー・クリスチャン

チャーリー・クリスチャンは、エレクトリック・ギター奏法の開祖として知られていますが、実は彼がリズム・ギターの名奏者でもあったことはほとんど知られていません。彼のダイナミックでスウィンギーなリズム・ギターは、フレディ・グリーンと並び称されてもいいものですが、ここではクリスチャンの超レアな演奏集の紹介にとどめておきます。

Jerry Jerome(ts, dir) Frankie Hines(p) Charlie Christian(g) Oscar Pettiford(b) unknown(d), Harlem Breakfast Club, Minn. 1939/09/24 (収録曲:I Got Rhythm, Stardust, Tea For Two)


ジャンゴ・ラインハルトでおなじみのストリング・スウィング(String Swing)と呼ばれる音楽では、リズム・ギターが主役となって活躍していますが、これはメインストリーム・ジャズのリズム・ギターとはコンセプトも奏法もまったく異なるものですから、その点を間違わないようにしてください。


4. エディ・コンドン

ジャンルはまったく異なりますが、ディキシーランド・ジャズ界では有名なリズムギター専業のエディ・コンドンに触れておきます。

エディ・コンドンは「フィクサー」としての腕前は評価されていますが、ギタリストとしてはほとんど評価されておりません。しかし、彼のリズム・ギタリストとしての腕前は高く評価しなければなりません。彼は1920年代に愛用していたバンジョーから引き継いで4弦式のギターを用いていますから音質は高音の弦音となり、高品位の再生装置でないと聴くことができません。CBSのレコーディングを注意して聴けば彼のリズム・ギターサウンドを聴き分けることができます。(収録曲:1. Beale Street Blues 2. River Boat Shuffle)

4.ローレンス・マレロ

ジャンルが異なりますが、リズム専業のバンジョイストにも触れておきましょう。
カウント・ベイシーの盟友フレディ・グリーンはベイシーより長生きしましたので、ベイシーは名リズム・ギタリスト、フレディ・グリーンのサウンドに包まれて音楽人生を終えることができました。
一方、トラディショナル・ジャズの大御所ジョージ・ルイス(cl)(1900/07/13-1968/12/31)は盟友の名リズム・バンジョイスト、ローレンス・マレロ(1900/10/24-1959/06/05)を早く失ってしまいましたので、晩年はみじめなリズム・セクションの中で演奏を続けざるを得ませんでした。


The World Is Waiting For The Sunrise 自慢の超レア音源です。
マレロあってのルイス。最盛期はマレロの方が人気があったのでした。1954 (なお、オハイオユニオンではありません。オックスフォード・バージョンです。)



RCA Recordings
RCA Recording Session (1955) / Nat Pierce(p) Freddie Green(g) Milt Hinton(b) Shadow Wilson(d)Joe Newman(tp) Frank Rehack(tp) Ernie Wilkins(as) Al Cohn(ts)